風 刺 前 線
Vol.2

2003.4.27.作成


  5月1日
 寒かった晩春の日も過ぎて出動部隊は春も花もなかっ
 た。桜も散りチューリップも散り、タンポポも散ってしまっ
 た。

  5月2日
 一国一城の主とは言ってもたった一畳ではやっと体を
 横にするだけで精一杯。しかしこのごろ畳が敷かれて
 その有難さが判る。

  5月3日
 子供連れの人達が連休を利用して旅行へ出掛けてい
 く。
 われわれは労組員の心無い罵倒を聞き黙々と任務に
 ついていた。

  5月4日
 月が出た出た月が出た〜ヨイヨイ三池のやまの上に
 出た あんまり争議が長いので三日月さんも涙顔サノ
 ヨイヨイ
 ああ、平和なやまで歌った炭鉱節がなつかしい。

  5月5日
 三池の青年特別行動隊の攻撃はひときわ目立ってい
 る。何か一昔前の特攻隊を思わせるが思想というもの
 がこんなに人間を一途にさせるものか?

  5月6日
 春雷が毎日のように鳴る。
 不気味な上空。しかし、地上の空気もまた不気味。
 

  5月7日
 男の節句、あまり刺激が強いので今年はおひなさまに
 しました…。
 こんな気の弱い主婦は三池には一人もいません。
 

  5月8日
 労組の主婦の中には相当派手に活躍する人があって
 その為に新労の主婦はイジメられ通しである。中には
 傷害を与えた人もあり警備本部は遂に暴力主婦の逮
 捕にふみ切った。

  5月9日
 大島社宅の入口に大書してある看板曰く、「会社の犬
 (警官)犬小屋に帰れ」と
 言論は自由であろうが人を傷つける言葉を臆面もなく
 大道に掲げる。民主主義を謳い人権問題に関心を持っ
 ている労働組合の行き方であろうか。
 

  5月10日
 金魚の名産地長洲町が近くにある。
 赤い金魚は美しいと思うが毎日赤旗ばかり見ていると
 赤い金魚までイヤになってくるヨ。
 
 
 

  5月11日
 バードウィーク、お巡りさんには日曜日も休日もない。
 せめて争議が済んだら巡査の日を作ってもらいたい。
 

  5月12日
 警察官は争議行為についてはレフェリーであると言わ
 れている。レフェリーに向かって攻撃を仕掛けるなどお
 よそ常識を逸脱しているのだが。

  5月13日
 “全学連” 時代が生んだ恐るべき奇形児。
 破壊主義によって革命のきっかけを作ろうとする最急
 進分子の先鋒、奇形児を治療する病院も医師もいな
 いのだろうか。

  5月14日
 ホッパースタイル、まるで強盗犯人か殺人犯人の服装
 である。この日大島社宅で第一労組員を逮捕したがそ
 の執行を妨害した7名も現行犯として逮捕した。
 県警始めての実力行使。

  5月15日
 三川坑ホッパーに対する立入り禁止処分執行命令が
 出て3日目の12日、板塀を作ろうとする会社とこれを
 阻止しようとする旧労は6000人を動員して人垣を作っ
 た。

  5月16日
 税金泥棒。 何回となく聞かされる言葉。
 泥棒呼ばわりされたのは生まれて始めて、馬鹿馬鹿
 しいが馬耳東風と言うわけにもイカナイ。
 

  5月17日
 今日で争議は113日を数えた。
 かつて28年の争議に「英雄なき113日の闘い」として
 勝利を得た労組も今度の闘いはまだまだ前途は程
 遠いようだ。

  5月18日
 交替で家に帰れるのは大変な喜びだ。しかし機動隊、
 警備情報関係はずっと現地に行ったままである。
 この日新聞はルバング島から15年ぶりに生還した伊
 藤軍曹他1人の話を報道していた。 

  5月19日
 中労委の再斡旋案が出るらしい。
 大相撲名古屋夏場所では力士達が土俵上で活躍
 していた。

  5月20日
 甘かったといえば実に考え方が甘かったかもしれな
 い。しかしこの争議で我々は忍耐という言葉を如実
 に体得した。

  5月21日
 警備勤務が長引くにつれて第一線ではヒゲを生やす
 隊員も多くなった。鹿児島部隊のH部長のヒゲはそれ
 は見事なものであった。

  5月22日
 荒尾に来て一番驚くのは炭婦連の主婦たちの言動で
 ある。男まさりの女傑が我々の姿を見ると実に口汚く
 ののしる。これが女の姿だろうか?

  5月23日
 この頃は第一労組員の八つ当たりは激しく少しでも
 自分たちに都合の悪いことであれば見境なくかみつ
 いて来た。

  5月24日
 闘争もすでに113日を過ぎて果てしなき争議街道を驀
 進していく。 ブレーキのない汽車。
 

  5月25日
 たまに交代で帰っても土産もない着たきり雀のお巡り
 さん。

  5月26日
 “安保反対”のデモが東京で起こり波紋は広がってい
 る。どこもここもデモ騒ぎでまるで革命前夜だ。 

  5月27日
 炭住街は初夏の陽に包まれているが第一労組と第二
 労組とでは五月の薫風も逆方向に吹くらしい。
 

  5月28日
 三池の主婦たちのイバシサには流石の警官隊もタジ
 タジ。 何と言われてもじっと我慢、我慢。
 いまに判る、いまに判る。

  5月29日
 荒尾の街の中でも郊外でも蛙の鳴き声がひどくなって
 毎夜グァラグァラと鳴き立てる。
 蛙の声も聞きようではいろいろに聞こえるもの。
 

  5月30日
 警備勤務での大敵“ノミ”が跳梁する。
 東京では安保改正を岸政府が強引に可決したという
 ので議事堂周辺は毎日毎日デモの暴行事件が続い
 ている。

三池争議TOPへ  風刺前線TOPへ