“人 災” そ の 後
有明鉱火災から1ヶ月
その3
患者 「ヤマしか働く場ない」 炭鉱に固執する鉱員 拒否反応示す人も 「生きる、死ぬはほんとに紙一重と思ったです。救助されたとき周りは四重、五重の死体の山 だった」大牟田市天領町の三池鉱業所病院に入院中の諸藤惟郁さん(48)=玉名郡南関町、仕 繰工=はつぶやくように言った。通称天領病院には諸藤さんら16人のCO中毒患者が入院した が、すでに2人は退院、自宅療養中である。 83人の死因が全員急性CO中毒死だった事からわかるように炭鉱火災(爆発)ではCO中毒が 最も恐れられている。あの日は血液中のCO‐Hb(ヘモグロビン)濃度10%以上を入院の基準にし たが、結果的には最低7.5%から最高24%までの16人を収容した。唯一の救いはいずれも軽度 の中毒だったこと。三池CO中毒医療委の三村孝一医師=玉名市、蓮沢病院院長=によると、 入院中の14人は頭痛、めまい、もの忘れ、不眠などの自覚症状を訴える者が7人、あとの7人は ほぼ消えて快方に向かっている。前者の7人のうち2人にはやや「知能障害」(計算記憶、理解力 減退)がみられるが、「性格変化」(怒りっぽくなる、幼稚になる、抑制がきかない)の心配はない。 近日中に8、9人が退院の予定という。諸藤さんは「治ったらまたヤマに出る。怖いとは思わん。 あすこしかワシの働く場はなかとバイ」と事故にこだわる様子はないが、中には悲惨な体験から 炭鉱そのものに拒否反応を示す患者もいるという(三村氏)。 死者458人を出した三川鉱炭じん爆発(昭和38年11月)では初期治療のまずさもあってCO中毒 患者は実に839人にも上り、今なお悲惨な後遺症に苦しんでいる。有明鉱火災では自力脱出者、 救出者のCO‐Hb濃度を坑口で測定したように、治療面では過去の教訓は生かされたとみる関 係者は多い。ただ、CO中毒に威力を発揮する高圧酸素タンクは病院側の管理が悪く、九州労災 病院(北九州市)などから搬送するひと幕もあった。 今回の事故で特徴的なのは83人の「死者」と16人の「軽中毒患者」の両極端に分かれた点。 「長時間COガスにさらされ、重度の中毒にかかったものは全員死亡したということだ」というある 医療関係者の推測は、次々と明らかになっている避難誘導のまずさ、救護活動の遅れを逆説的 に証明している。 療養者にとっては今後経済給付の問題が出てくる。休業補償金は労災保険による平均賃金 の60%だが、組合側は残る40%を会社に負担させる全額支給を目指している。(安永嗣三池新 労組組合長)。交渉は遺族への弔慰金上積みと同時に進められ、直轄と下請けの差別はないと いう。
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