B. 坑内災害の特質及び
その防止について
坑内作業は一般の工場とは違った特殊な条件にあり、そして昔から災害が起きているのは事実であ る。その為災害防止対策については種々検討されて、坑内は設備的にも技術的にも過去の炭鉱より 遥かに充実して来ている。更に組織的な防止運動と各自の自覚と努力の結果、災害成績は次第に向 上してきたが、まだ落盤等による色々な負傷災害は後をたたない。 坑内は地下で一般に狭く、暗く、ガスや水があり、蒸し暑い等の自然条件に加えて設備と共に働く場 所が動くという環境である。これらの障害を関係者共々克服して生産をはかるには、先ず全員が一致 協力して災害と斗うことであり、基本的には皆が自分の身体は自らが守るという精神で立向い、 安全 な職場を築くことが前提条件である。 実績をみると全国的にも、三池内でも落盤による災害が全体の30%以上を占めている。今日では、 全体の負傷を稼働延100万人当り負傷率79から50を割るように労使が取組んでいる。そして重大災 害(爆発、火災)の発生は会社の死活に影響を及ぼす事は勿論であるが、災害の中の落盤事故をな くすることが炭鉱災害を減少させる最も近道である。 |
1.落盤について 1-1 落盤とは 落盤とは、採炭、掘進等によって生じた空洞に天井や側壁、正面壁の岩石や石炭等が落下したり崩 れ落ちたりする現象である。 子供達が砂場でトンネルの穴をつくる時、最初のうちは砂がくずれるが、ある大きさになると立派に円 形のトンネルができる。これは円形を造っている周囲の砂が、お互に押し合っていて落ちないからであ る。坑道もこれと同じで、坑道の上にアーチが出来、アーチ内の岩石はよそからの力を受けないで自分 の重みで落ちてくる。坑内で高落ちとか、高抜けとかいって、中は落ちても上の岩が落ちずにいるのを しばしば見かける。 石炭を直接挟んでいるのは岩(砂岩、頁岩)である。従って、石炭を掘った跡の天井は岩で空洞がで きることになる。 坑内で切羽の巾とか露出天井ということがヤカマシクいわれるが、 これは天井が保てるか保てない かという重要な意味を持っている。 1-2 荷とは 地下の岩石は地圧によって圧縮されているが、坑道を新に堀ったり、払で採掘した後の空洞が出来 るとそれに向って膨張し押し出そうとする力をもっている。 実際は岩石の移動により現象として天井の 沈下や、下盤の浮き上り、側壁の張り出しをおこし、周辺に亀裂が入り支保が悪ければ落盤をおこす。 この力を荷という。 頁岩のようにもろい岩は非常に破かいし易く、落ちやすい。また荷のかかる状態は採掘の進むに従 い時々刻々と変化するので天井の点検は度々行うことが必要で、咋日と今日の荷のかかる状態は違 うので天井に対する注意を怠ってはならない。 1-3 落盤の前兆 落盤の前兆は採掘の状況、岩質、施枠等の状態により荷の大きさも違うので、当然その程度に差が ある。小さいものでは、天井からバラバラと細かい岩が落ちたり、施枠が移動変形したり、また奥鳴りが することがある。荷が大きいときは、払跡方面で山鳴りがしたり、壁が返ったり、天井から水が出たり、 あるいは支柱に荷がかかって、ビシビシという音やバリバリと音を立てて折れたりして、落盤の前兆を 示すものである。 2.落盤災害の原因について 発生した落盤事故について、その原因を検討してみると、技術的に経験なり、注意なり、あるいはそ の他の手段で防ぎ得たと思われるものが大部分である。人が手段なり方法を講ずれば避け得られる 性質のものならば、あくまでもお互いが努力し、防止などに尽して、災害の絶無を期したいものである。 統計上からみると、原因とみられるものは (1)天井、側壁の点検不十分 (2)浮石(炭壁、松岩)浮岩の亀裂に気付かなかった (3)浮石(炭壁、松岩)浮岩の落し方不良 (4)支柱遅れ (5)支柱作業の不良 (6)支柱の不完全、不規則によるもの などがいえる。これは直接作業のみでなく、機械器具取扱中、移動中、歩行中、休憩中においても発 生しているから、作業し、通行する箇所での天盤は勿論、側壁、作業面は常に点検を怠ってはならな い。 3.落盤の防止について 3-1 点検と処置 (1)点 検 点検とは @視診(見る) A聴診(聞く) B打診(叩く) の三つがある。 @視診(目で見て判断する) これは自分の位置、場所等を考えて次の点について点検する。 イ 天井は何か(砂岩か頁岩か)硬いか軟いか、腐れ天井ではないか。 ロ 断層、亀裂、にごり水、乱れ等は、その範囲は、今後どう変っていくか。それに対する支柱はどう か。 ハ ツキモノ(松岩)ソゲ岩(浮岩)ツウ炭(焼付)は見落さないように。 二 枠間、立前、迫前は、当り、楔、つなぎ、張らせは規格通り入れてあるか,切込み、エビ尻は完 全か。支往にかかっている荷の状態は。 ホ 掘進箇所の巾は規格に合っているか。中心通りか。加背は。枠裏の状況は。 A聴診(耳により判断する) イ 天井鳴りはないか。 ロ 天井のキシミ。荷のかかる音に注意して。 B打診(叩いてみて検査する) 点倹のうちで最も大切で、確実性のあるもので、 イ 作業着手前、作業途中、状況に応じて切羽面及ぴ周辺も。 ロ 特に発破前後は入念に。長休みの後の切羽も入念に。 ハ 自分の位置は真下にいないで、安全な箇所から始めは軽く、だんだん強く。手前から人を近づけ ないで、天井の低い所は手を当てて。 二 施枠(楔、成木も含めて)も叩いてみる。浮いている場合には打診棒(ツルハシ等)で叩くとニブイ 音がする。 (2)処 置 落盤災害の大部分は、浮岩によって発生しているので、浮岩を発見したら徹底的に落すことが絶対 安全である。浮岩落しの手順は、 @足場を選ぶ 足場のしっかりした所で、整理整頓をよくし、いつも退避できるように考える。 A実行する 足場を定めたら安全な場所に位置し周囲の人を退避させる。自分の身体も安全な姿勢で、適当な 長さの器具(ツル、長柄ヅル、金テコ)を用い、落ちる方向を考えて、手前から前押ししないように 落とす。 B再点検する 落した後は必ず再点検して、安全かどうか確認し、同時に枠が弛るんではいないかどうかも必ず チェックする。又通行中の人の危険を防止するために必要なら一時通行止めをするか、又は監視 人をつける。 落ちない場合は発破で落すか、又は確実な施枠をする。松岩の場合は発破で落とすのを原則とする が、不都合の時は指示された通りの支柱を施すこと。いずれにしても確実な方法を、時期を失しないで すみやかに実施することである。 3-2 落盤防止 落盤を防止する最も大切なことは、入念に、且つ慎重に時々検査をし、そして迅速に処置をすること である。即ち (1)天井、側壁の点検の励行 (2)浮石、浮岩の徹底的処置 (3)支柱規格の厳守(作業管理基準)である。 以上のことをふまえて、現場においては @係員から指示されたことは速かに、確実に実行する。 A切羽面天井の先受け、切羽面の押えを忘れないように。 B作業前、作業中の点検は勿論のこと、特に発破前後の天井、側壁、切羽面の切付け点検は入 念に行うこと。 C作業のため移動し、また発破などで倒された支柱は、速かに復旧すること。 D支柱の回収は熟練した作業者により、適当な器具を用いて実施すること。 E作業場または坑道における折損、または腐朽した支柱は速かに復旧すること。 Fなれるとかえって油断する。手を抜くな、念には念を入れること。 3-3 坑内支保 各々坑内の条件は違っているので、それに合った規格通りの支柱を施すことが大切である。支保は 空間の維持と坑内作業を安全にするために、天盤の悪い所に施行し、崩落を防止するばかりでなく、 良い天盤の所にも施して、天盤、側壁が悪くなるのを防ぐためでもある。落盤防止のため施す支柱に はいろいろあるが、大別すれば木材と鉄材が使用されている。 @打柱(ボーズ柱、トンボ柱がある) A木枠(本枠、ロング枠、角目枠、差枠などがある) Bアーチ枠(古レールやI型鋼を半円形に曲げた枠) C可縮枠(ハインツマン型鋼をとがりアーチ形などに曲げた枠) D木積(空木積、実木積がある) Eルーフボルト(普通19mmの丸鋼で長さが1.0m、1.2m、1.5mなどがあり天井側壁などに打ち込む) F水圧鉄柱、カッペ(高圧水で立柱する鉄柱で払のステーブル部、岩巻場附近や片盤の補強用な どに使用する。カッペは鉄柱の上に乗せる鋼材で長さは普通1.2mである) G自走枠(シールド枠とも云い高圧水によりすべての動作が一つのハンドルで操作できる自走支 保で、現在各鉱の払は全部自走枠払になっている) 2002.07.21作成 |