B. 坑内災害の特質及び
その防止について

 
                        

   

V.ガス炭じん爆発について

   1.可燃性ガス
 
   炭鉱で一般に「可燃性ガス」と言われるのは「メタンガス」の事である。
 
  1-1 メタンガスとは
  メタンガスは比重0.559で、純粋なものは無色、無味、無臭で生成は大昔の植物が炭化作用を受け、
 石炭になろうとする時、気体として石炭層の中に残ったもので、石炭の種類、性質、地表からの深さ、
 土盤の性質、炭層の変動などによって多い炭鉱と少い炭鉱がある。
  このガスは、拡散性が強く、又軽いため天井際などに濃厚なガスとして溜まる。新しい区域に向って
 炭層を掘進していくと、ガスは坑道に向って炭層や上、下盤の亀裂を通じて出て来る。坑内が広くなり
 坑道が沢山掘られる程坑内のガス量は増える。

 
  1-2 メタンガスの出方
  ガスの出方は一様に少しづつ出てくることもあるが、時には濃厚なガスが短期間に出たり、又坑道や
 切羽で多量のガスが、炭壁や岩盤を一度に押し出して出てくることもある。
  ガスは軽いので天井の凹所、昇詰、枠や梁上等に溜まる。又ガスは平素は少しづつ出て空気で薄め
 られるから差支えないが、大気圧の急激な降下が起ったり、落盤等で煽り出されたり或いは採掘跡又
 は空洞内に溜まっているガスが気圧の変化に従い急速に影響を受ける事になると、急に膨脹して切羽
 や坑道に流れ出し気流中のガス量を増加させる。

 
  1-3 メタンガスの危険性とその防止
   (1) 危 険 性
  メタンガスと空気がよく混ざると離れにくい性質を持っていて、火源に触れると混合割合によって次の
 ような現象が起きる。
  @ 5%以下    火源に接した部分だけ燃える。
  A 5%〜15%   火源に触れると急激に燃え拡がる(爆発現象)。
             9.5%の濃度になると最も激しく爆発を起こす。
  B 15%以上  ガス濃度が増えると酸素が不足し火源の周辺だけで燃え、著しくガスが多いと
            殆んど燃焼しなくなる。
  メタン5%以下の場合でも空気中に他の可燃性ガスがあったり、また特に揮発分の多い浮遊炭じんが
 多量にあると2%のガス濃度でも容易に爆発をする。
 
   (2) 危険防止について
  前に述べた通り、
  @ ガス爆発はガス爆発だけでなく炭じん爆発を誘発し人や設備に甚大な被害を与える。
  A 濃いガスがあれば酸素の欠乏により呼吸困難を起し、甚だしい時には窒息をする。
     これ等の危険を未然に防止し保安を確保するためには、
  イ、ガスを溜めないこと。
  ロ、若し溜まったら速に排除する。
  ハ、どうしても排除出来ない時は密閉、禁柵等の危害の起らない確実な予防処置をする。
     通気の所で述べたように坑内へ送られた空気が確実に隅々迄理想的に流入し目的を
    達するよう、通気門、風橋、風管等の通気施設に対する注意事項や法規に規定された事を
    完全に守る事が大切である。

 
   2.その他のガスの種類について
 
   (1) 坑内に存在し、又発生するガスの主なものは次の通りである。
  
ガスの種類 比 重 発火点 爆発限界 有毒性 坑内許容限界
空  気
(窒  素)
(酸  素)
1.00
0.98
1.11
― ℃

―%



―%

炭酸ガス
メタンガス
一酸化炭素
1.52
0.55
0.97

632
609

5〜15
12.5〜74.2
酸欠危険
酸欠危険
有り
1%以下
2%以下
0.01%以下
 
  ※ 炭 酸 ガ ス
  炭酸ガスは無色無臭で水によく溶け、空気より重く拡散性が少いので旧坑、密閉内に多量の炭酸ガス
 が必ず溜っているので、知らないで入り酸欠を起こし窒息死する事がある。
 
   (2) 資  料
  @ ガス炭じん爆発の着火原因別火源の種類
  イ、電気   ロ、発破   ハ、発火具   二、裸火   ホ、自然発火   ヘ、其の他

 
   3.炭 じ ん
 
  炭鉱の坑内で石炭を掘る時は勿論、積込み運搬の時等で砕かれ細かい石炭の粉が発生飛散し広い
 区域に堆積する。この石炭の粉が炭じんである。
  点火すると炭じんは燃え易く且つ爆発する。一度爆発を起すと、圧風により次の炭じんを煽り立て次々
 と爆発を増す。この現象を炭じん爆発という。


   3-1 炭じんとは
  ここでいう炭じんとは、爆発性を有する炭じんで法規上では、次の様に決められている。
  (1) 石炭の試料分折の結果 揮発分11%以上のもの
  (2)粒子の大きさ         0.84o以下のもの

 
   3-2 炭じんの発生箇所及び時期
  (1) 払及び小切羽における採炭作業中。
  (2) 沿層掘進延先における作業中。
   @ピック又はツルハシで炭切中。
   A発破孔穿孔中。
   B発破の際。
   Cカッタ切削中。
   Dローダーで積込中。
   E切羽運搬機に積込中。
   F切羽運搬機で運搬中。(特にコンベアの落し口)
   G炭車に積込中。
   H炭壁が崩壊する時。

 
   3-3 炭じん爆発の危険性とその防止
  (1) 炭じん爆発の危険性
  炭じんはその粒が小さければ小さい程危険性が多く、又空気中に浮遊し易いものである。爆発の時に
 炭じんに点火する必要な条件は炭じんが空気中に混っている時で、燃え易い炭じんは1立方メートルに
 50g位あれば爆発すると云われる。
  殊に乾燥した浮遊炭じんはその危険性が倍加されることになる。
 
  (2) メタンガスと浮遊炭じんとの爆発性
  メタンガスのある所では、炭じんは爆発し易くなり炭じんが50g以下でも爆発するので、炭じん爆発を
 誘発し易い。
 
  (3) 跡 ガ ス
  炭じんは坑内が乾燥している時、炭じんの発生発散のまま放置すると、その炭じんは気流により排気
 道に堆積する。
  通常入気坑道を運搬坑道としているから、運搬で飛散したものはそこに堆積することが考えられる。
 従って局部的な小爆発が次々と炭じんを吹き上げ、連続爆発を惹起する事になる。
  炭じん爆発は排気側にも及ぶが、一般には入気側に向かって伝播し易い。
  爆発した時に発生する跡ガスの量は、ガス爆発の時は少ないが炭じん爆発の場合は跡ガスの量も
 多く、有毒な一酸化炭素を多量に含むから爆焔による軽い火傷や爆風による打撲傷程度の者や、全く
 無傷の者でも通気施設の破壊による通気系統の混乱も重なり、一酸化炭素中毒で死亡する場合が多
 いのである。
 
  (4) 炭じん爆発の発火源について
  炭じん爆発の火源の主なるものは次の三つである。
 殊に乾燥した浮遊炭じんがある時はその危険性が倍加されることになる。
  @ 発破の火焔によるもの
   発破の空発によりそのショックで炭じんが吹き上げられ、爆薬の火焔で炭じん又はガスに着火する。
  A ガス爆発による(自然発火、坑内火災)点火
   ガス爆発のショックにより炭じんが舞上り、爆発の高熱により直ぐ誘発する。
  B 電気の火花による点火
   高圧ケーブルが短絡する時は1m以上の火花が発生する事があり、この火花に伴う空気振動が炭じ
   んを舞上らせて爆発を起こす。
 
  (5) 炭じん爆発の防止
  炭じん爆発を末然に防止する、ごく一般的な予防措置は、次の四つにつきる。
  @ 炭じんの発生をなるべく少なくすること。
  A 発生炭じんを除去する。
  B 発生した炭じんの爆発性をなくする。
  C 発生した炭じんに着火する原因をなくする。
  現在行われている主な方法は
  @炭壁注水、散水   A噴霧   B炭じん清掃
  C岩粉散布     D爆発伝播防止施設
 
  @、Aの炭壁注水、散水、噴霧については炭じんの発生を少なくし防止するために最も手近で効果的
 な方法であり、要は乾燥した炭じんを如何に発生させず、且処理をするかであり、保安規則では炭じん
 の処理について次の如く定められている。
 
 第141条
  爆発性の炭じんが飛散する次の各号の箇所には、爆発性の炭じんを鎮静するため散水、炭壁注水等
 適当な措置を講じなけれぱならない。
  1、採炭機械、ピック等の使用により爆発性の炭じんが飛散しやすい採炭作業場および掘進作業場な
    らびにこれらの附近。
  2、炭層発破の前後における発破箇所およびその附近。
  3、石炭の積込口および積換場。
  4、坑内貯炭場および臨時に坑内に集積した石炭の全面。
  5、鉱車に積込の直前もしくは直後における石炭の全面または適当な箇所における鉱車内の石炭の
    全面。
  以上の規則の趣旨に従って、
  (イ)切羽坑道の周壁、枠等に附着した炭じんには散水か、又は岩粉散布を必ず行う。
  (ロ)発破前に十分行い、炭じんに水分を与え飛散防止を行い爆発性をなくする。
  (ハ)発破後破砕された石炭を十分湿らし、その後の積込運搬等による炭じんの飛散を防止する。
  (ニ)カッタ、ピック、ホーベル等の機械採炭中炭じんの発生を少なくする。
 
  B炭じん清掃
 第139条
  炭じんは、運搬坑道その他の坑道においては、その飛来集積の程度に応じて、定期的に清掃しなけ
 ればならない。
 
  C岩粉散布
 第142条
  爆発性の炭じんが飛来集積する箇所においては、常に別に告示する量の岩粉を散布しておかなけれ
 ばならない。
  岩粉散布が炭じん爆発の防止に非常に効果がある事は現在では常識的な事である。尚岩粉散布に
 ついては法規で色々規定されているので係員の指示を守り散布する事。
 
  D爆発伝播防止施設(規則146条〜148条)
  爆発性の炭じんの爆発の伝播を防止するため、主要運搬坑道、坑内作業場出入口附近、作業区域の
 出入口附近、その他必要な箇所に爆発伝播防止施設として岩粉棚、又は水袋(水棚)及び濃密岩粉地
 帯を設けてある。作業で外したり、壊したら必ず元通りにするか係員に届出ること。
  要は前項で述べた爆発の発火源を絶対に出さない事は当然な事であるが、第一にガスや乾燥した炭
 じんを坑内に溜めない事が大切である。

 
   4.坑内で爆発に遭った時の心得
 
  (1)平素の心構え
 @ 繰込場に掲示されている保安図の写し、または坑内詰所に掲示されている略図によって坑内の通
   気系統、人道、救急所等を覚えておくとともに連絡方法、集合場所、非常退避所、救急センター等を
   承知しておき、変災が起った場合、ただちに正確な判断に基づく適切な行為がとれるよう、心がけて
   おく。
 A 三ヶ月に1回以上退避訓練が行われるので、想定にもとづき係員の指示に従い、指定された場所に
   退避等教育指導をうけておく。
 B 坑道の分岐点その他必要な箇所に標示された坑道の名称、出口の方向等に注意し記憶しておく。
 C 坑内で爆発の起る原因、爆発によって起る坑内の破壊、跡ガスの性質等について教育を受けたこ
   とや、係員からの注意事項等厳守するとともに覚えておく。
 D 一酸化炭素用自己救命器(COマスク)は、入坑者はすべて携行しなければならないことになってい
   るので必ず携行し、その使用方法を覚えていなければならない。又、破損した場合とか破損したおそ
   れのあった時は、直ちに修理又は点検を受けておくこと。
 
  (2)爆発をどうして知るか
 @ 爆音と共に爆風が来襲した時は、爆発が起ったものと心得ねばならない。
 A 時としては、払跡の大落盤、大きな「山はね」等の場合も通気門の門扉が飛び、人が倒される程度
    の空気の大振動を起すこともある。
 B 爆発の場合は二次爆発ないし三次爆発を生じ二回又は数回、空気の振動が来ることがある。爆発
    の後には「かえし」(もどし)といって、反対の方向に風が来るから注意しなけれぱならない。
 C 音響が大きく空気の振動(圧風)がたびたび来て、その振動が強くて長く続く時は大爆発であると思
    わなければならない。
 
  (3)爆発を知ったらどうすれば良いか
 @ 係員の指示に従い、個人行動はしないこと。
 A 心を落ちつけ、うろたえ騒ぐことのないようにしなければならない。
 B 空気の振動の来る方向に注意し、敏速に炭壁の間等に隠れあるいは身を伏せて、圧風や火焔を避
    けなければならない。
 C 安全灯の保護は大切で、破損しないよう注意をする。
 D 爆発の瞬間水中に身を避けることもよいが、長く水中に居ることは効果がない。
 E 火傷を避けるため衣類を完全にまとい、タオルを以って顔面を包む等、身体中の露出部をできるだけ
    少なくしなければならない。特に火焔を吸いこまぬため、口および鼻孔を覆うことが必要であり、又歩
    行するときはできるだけ姿勢を低くしなければならない。
 F 一応空気の振動がおさまったときは、状況が分り次第非常集合場所に集まるか、もよりの係員と連
    絡をとり今後の行動について指示をうけなければならない。
 
  (4)どんな方法で昇坑したらよいか
 @ 状況によっては退避の途中で落盤、崩壊、坑内構造破損物による坑道閉そくに対処するためツル
    ハシ、ショベルなどの工具を携帯すること。
 A 大規模落盤などで長時間坑内に閉じ込められる場合を考慮して飲食物を忘れずに携帯すること。
 B 付近の空気は新鮮であるか、気流は通っているかを確める。
 C 付近の坑道の破損状況をしらべる。
 D 進退については、係員の指示に従う。係員が居ないときは作業員のおもだった人が中心となって、
    統制のある行動をとること。又、集っている人の中に、かつて爆発にあった経験のある人がいたら、
    その人の意見を尊重する。
 E 係員の指示により付近の主要入排気道に行き煙や塵あい(跡ガス)が充満して居るかを検査する
    が、入排気道の門の開放は係員の指示以外は絶対にしてはならない。
 F 携帯するCOマスクは、突破脱出用であるので異常な発煙を認めた場合以外は係員の指示により
    着用すること。
 G 濃厚な跡ガスが流れていると考えられるときは、もよりの救急センターに行く。無い時は盲坑道(袋 
    切羽)その他通気の動きの少ない箇所に退避する。その時は酸欠があることが考えられるのでその
    調査をして退避し、跡ガスが流出してから脱出を図るようにする。
 
  (5)昇坑が出来なかったらどうするか
 @ 探検の結果、主要坑道に跡ガスが充満しているとか、大落盤で昇坑することが出来ないことを知っ
    た時は、一時安全な場所を求めてろう居する覚悟が必要である。
 A ろう居場所はなるべく鉄管または軌条のある天井の良好な所(主要入排気の門を開放した手前、
    入排気の交差する風橋の奥等)が良い。圧縮空気が来ていたら開放しておけば安全である。又、
    時折鉄管をたたき生存の合図を送り救護隊に所在を知らせること。(COマスクは一時間以上たつ
    と、たとえそれまでにCOに接触していなかったとしても以後の防毒能力がなくなるので長期ろう居
    には新鮮な空気の供給が必要である)
 B ドンゴロス・ビニール・板・その他あり合わせの材料で、または各自の上衣をつないでろう居場所の
    入口を閉そくし、通気上の独立区域とすることも、状況によっては必要なことである。この際、閉そく
    区域外の気流の変化やガスの状態に注意しなければならぬ。
 C ろう居箇所は一箇所に多人数集合することを避け、時々その場所を係員の指示により変えることが
    ある。可燃性ガス、炭酸ガスの発生及び増加については特に注意する。
 D ろう居の場合、安全灯を順次点灯して長時間の照明に備えるがよい。食事はなるべく節約し長時間
    のろう居に備えなけれぱならない。
 E 爆発の規模や状況によって自分たらの居るところが全く孤立した場合もあれば、また広範囲に連絡
    のとれる場合もあるので、ろう居中は相互に連絡をとり、情報を交換して脱出を図るようにする。
 F 移動する際には白墨紙片等を利用して、自分達の動勢を残しておくことが大切である。
 G ろう居は一時的の策であるから絶えず外部の変化に注意し、脱出の時期、経路を探検して安全な
    方法で脱出することを考えなければならぬ。脱出の方法がない場合はできるだけ心を落ちつけて、
    心身の消耗を少なくし救護隊の到着を待つべきである。
 
  (6)昇坑した場合はどうするか
 @ 自力脱出に成功したときは、坑口繰込場に昇坑した旨を届け、できれば途中観察した坑内状況を対
    策本部に報告しなければならない。
 A 昇坑後はたとえ健康そうに思えても、医師の診断を受け、特にCO中毒の有無についても検査を受
    け、以後しばらく安静にしていなければならない。
 
  (7)そ の 他
  非常退避の場合は20点ベルが鳴る。

 
   5.退避訓練及び退避の指導教育について
 
 (1) ガス、もしくは炭じんの爆発、坑内火災、または出水の想定のもとに3ヶ月に1回以上の退避訓練を
    行なはなければならない。
 (2) 訓練の実施責任者は管理者の指定した者とする。
 (3) 通報は誘導無線、電話、警報器、信号装置、伝令またはメルカプタン等による。
 (4) 退避訓練の方法は
  @ ガス炭じんの爆発または坑内火災
    想定した災害に対し、跡ガス、煙等の状況によって係員の指示にもとづき指定された場所に退避す
    ること。
  A 出水災害
    出水箇所その他の状況に応じ係員の指示にもどづき指定された場所に退避すること。
  B 退避の連絡を受けた者はすみやかに附近の者に知らせながら指定された場所に退避すること。
  C 訓練時必ず点呼を受けること。

 
   6.非常出水について
 
 (イ) 非常出水の場合についても必ず常に係員の指示により行動すること。
 (ロ) 直接作業現場での出水以外は出水の警報を受けたら平常訓練を受けたことを念頭に行動し、非
     常集合場所に集り、係員の指示を受けること。
 
                                                     2002.08.04作成

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