風 刺 前 線
まえがき

2003.2.23.作成


      編 集 の こ と ば

  昭和35年3月27日、われわれは世紀の大争議といわれている、三井三池争議の警備に出動しました。

  熊本県警はその総力を挙げてこの争議に対処し、県警始まって以来の警備陣を敷き、出動した警備警官は
 ややともすれば軌を越えようとする争議行為を日夜見守りつつ必死になって不法行為の防止、炭住街の治安
 確保に努力を続けてきました。
  たけなわの春を見送り、炎熱と闘い、いつしか秋風の吹く頃をむかえました。思えば長いそして苦難に満ちた
 勤務の連続でした。
  4月初旬上原本部長のアイデアによって「やまの灯」が陣中新聞として発行されましたが、以来防犯課勤務の
 松永清春君が警備勤務をめぐる警備警察官の哀歓と三池争議の推移を見事に捉えて漫画として連載してくれ
 ました。
  三池労組も中労委あっせん案受諾にふみきり、四山に、緑ヶ丘にようやく平和の光が見えはじめています。
  このときにあたり、苦しかった警備勤務を笑いの中に偲ぶ思い出のよすがにもと「やまの灯」に連載された松
 永君の漫画を一冊に集録しました。
  警友各位の心に、いささかでも思い出の灯をともす事になればしあわせに存じます。
  最後にこの警備に出動し、また後方治安に奮闘された警友各位の御労苦に対し敬意を表すると共に、この警
 備にあたり警察に寄せられた各方面の御好意に対して心から御礼を申し上げたいと存じます。

                  昭和35年9月                        編 者
 

        風 刺 前 線 に 寄 せ る                   後 藤 是 山

  その人を知って後その仕事を知る場合もあれば、その仕事を知って後その人を知る場合もある。松永さんをわ
 たくしが知ったのは第二の場合である。 「やまの灯」を手にするたびに、第一の興味は松永さんのカリカチュア
 (漫画・風刺画の意)であった。最初は単なる興味であったが、それがいつのまにか注意に変わり熱意にまで発
 展した。そこで頭をもたげた疑問は、一体この作者はホンモノの警官なのか専門画家なのかという事であった。
 もしホンモノの警官なら、三池争議ではないが希望退職しても食いそこないは無いぞ、イヌだの税金泥棒だの、
 下品下劣な罵声を冷笑に附しながら辛抱するにも及ぶまいなどと、人の頭痛―ご本人は頭痛も腰痛も足痛も無
 かったのかも知れないが―を気に病むようなこともあった。
  ところが四、五日前、その松永さんが突然茅屋に訪ねて来られて、熊本県警察本部刑事部防犯課勤務、熊本
 県巡査松永清春という厳めしい名刺を出して、「やまの灯」のこれまでの漫画を一纏めにし、それに三池争議に
 出動した3月27日から9月30日までの漫画日記を添え「風刺前線」と題して出版することにしたからとの話であっ
 た。松永さんのカリカチュアには心のよりどころがあり、立脚地がある。従って独自性があり、純潔性があり、そ
 の角張った名刺にも似ず温かい柔軟性がある。それでいて内に錐のような尖鋭さをも蔵している。
  単に一地域の争議でなく、我が国の労使争議上特筆すべき記録的、一大事件であったこの度の三池争議が、
 松永さんの「風刺前線」で記念されることは、極めて有意義な事である。

           昭和35年                  (熊本県文化財専門委員評論家)
 

              序      文

  三池争議の警備は、県警察の大きな試練であった。立場の相違からくる必然的な摩擦や、労働者相互の紛
 争など随所に発生し、労働争議に関連する警備は戦後における警察の宿命的な重荷となっている。

  史上最大といわれたこの争議は、1200人の人員整理の問題であるだけに、その規模の大きさ、対立の激しさ、
 深刻さなどかつてその比をみないものとなり、警備にあたる警察官は、その立場の困難性を身をもって体験させ
 られた。
  このような心身両面の過重な負担に、ともすれば沈みがちな部隊員の志気を昂揚し、健康を保つため、色々
 の方策が講じられたが部内広報紙「やまの灯」もそのひとつとして、部隊出動以来今日まで1日も休まず続けて
 きた。松永君は「やまの灯」に漫画によって時評を試み、出動に疲れ、すさみがちな隊員に明るい笑いと慰めを
 もたらした蔭の力は大きい。慌しい勤務の余暇を利用してまとめられたものであるが、画、文ともに面白く、生々
 しい体験の記録であるところに特異性があると思う。
  今回県警本部で「やまの灯」に連載したものを単行本にまとめて出す事になったのも三池争議警備を生涯の思
 い出として残し、あわせて三池争議に関心を持つ多くの人たちに正しい現実の姿を直視して頂きたいために他な
 らないのである。この寸評が読者各位の三池争議に対する理解の一助ともなれば幸せと思っている。

                     熊本県公安委員会  委員長   上 田 滋 穂
 

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